1. ホーム
  2. 京まなびネットニュース
  3. 京都市社会教育委員のコラム「まなびぃのつぼ」 片山 九郎右衛門 委員 ~二十年後の君へ~

京まなびネットニュース

社会教育委員 2018年12月11日 ニュースレター

京都市社会教育委員のコラム「まなびぃのつぼ」 片山 九郎右衛門 委員 ~二十年後の君へ~

「二十年後の君へ」

京都市社会教育委員会議 片山 九郎右衛門 委員
(観世流能楽師)

 最近久し振りに小学校の同窓会にいってきました。みんな懐かしい面々で,まぁ中には二時間くらい名前を思い出せない人もあったのですが。そこはやはり小学生のときの容赦のない思い出と共に突然よみがえってくるのでした。全然変わらない人,全く昔と違う人様々です。私は「小学校からちっとも変わってへんな。」と言われた方ですが。いえいえ,こんな仕事をしていますと,50才を越えた肉体の衰えをかなりリアルに実感します。去年まで難なく回れた型。先月までは四,五回続けられた事がつらい。そのかわりに得られる発想やイメージは確かにあるのですが,何か大切なおもちゃを壊してしまった子供のような感覚におそわれ,せつないものを胸に抱いてしまいます。
 今ちょうど歌舞伎の中村鷹之資君に『熊坂』の稽古をつけさせてもらっています。鷹之資君は亡父の盟友であった故・中村富十郎さんのご子息で非常に才能豊かな20才の青年です。その彼に父以来,能の稽古をつけさせて頂いているのですが,何せ20才と53才です。こちらは三度も稽古を続ければ完全に息が上がってしまいます。しかし,むきになって四度五度,ついには八度まで一緒にしてしまいました。教えなければという思いはありました。しかし,それ以上に若さがうらやましく,まぶしく,俺だって動いてみせるという思いで稽古を続けました。
 この『熊坂』という曲は,平安末期の大盗で,60才を越えて数多くの手下を率いて暴れまわった男,熊坂長範その人をとりあつかったものです。伝説では,その大盗を元服まもない源義経(牛若丸)が討ちとったことになっています。そして今回の稽古は,まさにその牛若にほんろうされ,終には討たれてしまう熊坂の姿を,一人で長刀をもって表現するものなのです。
 稽古しながら,ふと思いました。これじゃ熊坂の稽古をつけているというより,自分が熊坂,彼は牛若だなぁと。だって,20才の彼は全く息も上がってないのに,こちらといえば,みっともない程息もたえだえなのですから。けれども不思議にみじめな思いはしませんでした。牛若の晴れやかな顔をみていると一緒に遊んだあとの友達のようにも見えたのです。「はぁー若さには勝てないわ。これが年だなぁ。」とあきれ半分。満足半分。もう一度わが息子にもこんな稽古をせねば,と思いました。

-------------------------------------------

【片山 九郎右衛門 委員 プロフィール】

 片山幽雪(九世片山九郎右衛門・人間国宝)の長男。祖母は京舞井上流四世家元井上八千代(人間国宝),姉は五世家元井上八千代(人間国宝)。父及び八世観世銕之亟(人間国宝)に師事。国内外で多数の公演を行う他,学校での能楽教室開催,「能の絵本」制作など,若年層のための能楽の普及活動にも尽力。重要無形文化財(総合指定)保持者。平成29年7月から京都市社会教育委員。