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社会教育委員 2018年9月21日 ニュースレター

京都市社会教育委員のコラム「まなびぃのつぼ」 稲垣 恭子 委員 ~コミュニケーション力と沈思黙考力~

「コミュニケーション力と沈思黙考力」

京都市社会教育委員会議 稲垣 恭子 委員
(京都大学大学院教育学研究科長)

 専門領域のちがう人の話を聞いたり,一緒に仕事をすることが以前より多くなった。自分では考えつかないようなテーマや発想に出会うのは,それだけで楽しい。ただ,人の話を聴くほうはいいのだが,自分が専門や職業の異なる人にも面白いと思ってもらえるような話しかたをするのはなかなか難しい。自分にとっては当たり前になっていることをあらためて説明するとなるとうまい言葉が見つからないこともある。適切な事例があれば伝わりやすいから,そういう工夫もいる。確かに,コミュニケーション力は大切だと実感する。
 しかし,一般にコミュニケーション力というと,いろんな領域の新しい情報や先端的な知識をすばやくキャッチし,それらを使って自分をアピールする力とか,あるいは人とスムーズにつき合っていける社交力といった意味で使われることが多い。グローバル化や知のフラット化が進む現代では,こうした能力がますます必要になっていくことは確かだ。でもそれだけでいいのだろうか。
 新しい知識や情報を交換できるのは楽しいし,また役に立つことも事実だが,他者との出会いの魅力はそれだけではないだろう。自分とは異なるものの見かたや考えかたと出会うことは,自分自身を振り返り内省する機会になるし,それによってこれまでよりも奥行きのある見かたができるようになったり,場合によっては生きかたに影響をもたらすこともある。
 そう考えると,すばやく情報をキャッチしそれらを必要に応じて使っていける情報処理能力や発信力としてのコミュニケーション力だけでなく,その下にある他者のものの見かたや感じかたの違いを受けとめ,それを自分のなかで吟味しなおすことも大切だと思う。黙っているのはコミュ力がないと思われがちだが,実はコミュニケーション力を下支えしているのは,この「沈思黙考の力」なのだ。
 「まなび」には,新しい知識や情報をスピーディに吸収していく前のめりの側面と同時に,行きつ戻りつしながら考えるいわば「ため」の側面も必要だ。奥行きのある「まなび」は,そうした両面から生まれるのだと思う。

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【稲垣 恭子 委員 プロフィール】

 京都大学大学院教育学研究科長。専門は教育社会学,歴史社会学。京都大学教育学部卒業。帝京大学,滋賀大学を経て京都大学大学院教授。2017年から現職。放送大学客員教授を兼任。女性の教養文化,師弟関係など教育を支える文化の仕組みを研究している。